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タイトル: ブルーシートの歌が聞こえる 年月日: 1996年3月9日 場所: 山梨県 浩庵キャンプ場
あらすじ: 愛知と静岡から友達がやってきて本栖湖でキャンプをすることになった。
まことにお気楽な仲間であったが、寒さの対策をしなければいけない。ぼくは急ごしらえでブルーシートとビニルシートで温室をつくった。

さて、当日。風が出て本栖湖の畔は寒くなった。ぼくのつくった温室はそれなりに風を防いだ。夜になって風が止んだ。子供たちはいつまでも焚き火の周りで遊んでいた。

東もうおよそ10年も前の楽しいキャンプです。

キャンプ場の料金
 一人500円
 テントひと張り1000円
 車一台1000円
水場あり トイレ(水洗あり) 直火OK

 【マップ】

 

□□ 96年3月9日 

 また、浩庵キャンプ場へ行った。

 今日は、ここに静岡と愛知の友達家族がやってくる。今年の1月、この場所でぼくがキャンプをしたことを話したら、俺達も行ってみたいという事になったのだ。

 彼ら、冬のキャンプにはそれなりの自信を持っている。一昨年の12月に冬のキャンプに行ったときのことは記憶に新しい(「おじさん達のクリスマス」を参照してください)。冬の寒さを冗談で吹っ飛ばすチカラを持った不思議な連中である。

 とはいうものの、ぼくとしてはかなり躊躇されたのである。洪庵の冬は厳しいのだ。

 それに今回は奥さんも子供も一緒に連れてきたいという。かれらは当然ながらその気象条件の悪さ加減まで考えているはずは無い。

 寒くなればテントに引っ込んで寝るしかないわね、焚き火をがんがんやればどってことないよ、それにやっぱあれじゃない、徒党を組めば寒さなんてへっちゃらね。などとあいかわらずのお気楽さである。

 さらに、この日のためにテントも買い揃えた、ほかの装備も充実したから絶対に迷惑はかけない、おかーちゃんにもいいとこ見せたいし、夜明けの富士山を見ればなにもいらない、うまい酒も肴もちゃんと持っていくから、としつこく言うので、それならばしょうがないかということになったのだ。

 さて、行くことを決めたは良いのだが、浩庵キャンプ場は標高九百メートルの地にある。風も強い。この冷気と強風をみごとさえぎるものが無ければ辛いキャンプになる。

 やれやれ。ぼくは、ST温室もしくはタープ簡易温室をこしらえようと考えた。いつもは物持ちのキャンプ仲間達がいつも一緒だから、まったく心配無いのだが、今回は完全に我が力だけでこの難局を乗り越えねばならない。

 しかし、なにせ時間が無い。そこで早速近所のアウトドアショップをまわって、まずはスクリーンテントを探した。しかし今はちょうど96年度モデルの出る直前ということもあり、どこも在庫は無く取り寄せになるという事だった。

 ならばタープを買ってしまおうかとも思った。ぼくが今使っているのはヘキサウィングタープである。これを温室にするには形状が複雑すぎてぼくの工作技量では不可能だ。ビニルシートを取り付けるなんて神業に近い。

 四辺が真っ直ぐなレクタングラータイプのものならなんとかなるかもしれない。ライダーさんの知恵を丸ごといただけばなんとかなる(『キャンプで餅つき』を参照してください)。ところが、そのタープすら店頭では見つからない。ああ、困った。

 そこで、思い切って全てのパーツを作ることにした。材料も手に入るもので。工事用のブルーシートならどこでもOKだ。つまり、目も鮮やかな、かつて誰も見たことの無い、ブルーシートの温室を本栖湖畔に出現させようという魂胆である。(筆者注:当時はブルーシートを囲って住居にしようという人々が少なかったのではないかと思っております。しかしながら現代では隅田川堤防、上野公園周辺などに参りますと、ブルーシートの屈強な住居をたくさん見ることができます)

 設計図なんてものを引くのは面倒くさいので、完成イメージだけを頭の中で作ってみた。燦然と輝くブルーシート。きらきらと太陽の光を反射する透明ビニルシート。中では奥さん達がテーブルを囲んで料理をしたり、午後のお茶の時間を楽しんでいる。いい眺めである。

 原理は簡単。天井に長方形のブルーシートを用いる。壁にあたる部分は透明ビニルシートもしくは同系のブルーシートにしてしまって、緞帳のように吊り下げる。そうして箱形の密閉空間を作る。

 ここで、完成予想をしてみよう。つまりこうである。


予想図
ブルーシート温室完成予想図
天井をブルーシートで覆い
側面にビニルシートを吊す
四隅は市販のポールを立てる

 四本のポールに支えられて、天面となる一枚のブルーシートを浮かせる。その四辺にシートを吊り下げて壁面を構築するわけである。長辺にあたる両側部分の壁をブルーシート、短辺にあたる部分の壁を透明ビニルシートにする。しかも透明ビニルシートは各面につき2枚で構成する。さながら暖簾のようになって人の行き来が可能になる。

 天井と側壁部分の連結はそれぞれのシートにグロメットを打ち付け、S環もしくは細引きで留めることにする。ポールとシートの固定はパッカーもしくは大型のクリップで挟み込むことにする。

 そうすると大型マッチ箱のような、あるいはコンテナボックスのような空間が出現し、高さ2メートル、間口2.7メートル、奥行き5メートルの立派なリビングとして機能するはずなのだ。もしも壁面のブルーシートの長さがあまっても折り返しておけばいい。

 完璧である。なんの不安も無い。急ぎブルーシートを購入した。5メートル×2.7メートルのものが1800円である。今、手持ちのシートが1枚あるので、それを含めて3枚のシートで天面と両サイドを覆うことにして、2枚購入。さらに、切り売りの透明ビニルシート135センチ幅の0.2ミリ厚のものを2メートルづつ4枚。これがメートル単価350円である。

 翌日さっそく会社を休んで工作に取りかかった。会社には風邪がぶり返したことにしてあるから、安易に電話には出ないように気をつければいい。ここまでの手順に間違いはなかった。実際に建ててみるまでは…。

 さて、場面は元に戻ります。洪庵キャンプ場です。ぼくらは、雪の残る松林の一角に陣取り、いよいよブルーシート温室を設営することになったのであります。

 まずは天面を四本のポールで持ち上げる。うん?なんか妙に高いな。あれっ?そうか、このポールは2メートル40センチあったんだ。設計では2メートルのはずだった。

 ということは?むむっまずいな。透明ビニルシートは寸足らずになるかも…な。ちょっと背中がぞわぞわとしてきたが、まあ、そうなっちゃったものはしかたがないか、とすばやくあきらめて次の工程にはいる。

 まずは長辺がわの側壁である。これはうまくいった。もともと同じサイズのブルーシートをくっつけるのだから間違いはない。
 と、そのとき一陣の風が湖のほうから吹き込んできた。まずいなあ、と思っていると。側壁部分に風がまともにあたり始めた。

 順風満帆という言葉がある。それは物事がまことにうまく進んでいるときの形容として使われる。では、風を精一杯はらみ今や倒壊寸前の状態はなんといえばよろしいか。などと考えているひまは無い。

 とたんにわがブルーシートの側壁は強烈な風をめいっぱい受けて、バッという音とともに、糸の切れた凧よろしく天面もろとも吹き飛んでいってしまった。

 そこから、風との戦いが始まった。なんとか張り綱を増強し、そこいらの松の木に貼り付けるようなカタチにして、ついに長辺側の側壁を不動のものとした。はあ、やれやれ。疲れた。なんだかんだで1時間はかかってしまった。

 しかし、まだ終ったわけじゃない。次は、短辺側の側壁すなわち透明ビニルシートの取り付けである。高さの計算が狂っているので、多少寸足らずになるのはしょうがない。早くここにシートを張らないと、風がスースー吹き込んで、キャンプどころじゃない。

 これはうまく行くだろ…う…ぅ、あれ?あれれれれぇ?

 本来の構想ではこちらの壁は二枚のシートでふさぎ、暖簾のごとく真ん中の切れ目から人が行き来できるようにしたつもりだ。その接合面はぴったりと合わなければいけない…のだ…けどなぁ…。なんで合わないのかなあ。

 よく見れば天面シートが重量でたわみ、そのためグロメットで連結した2枚のシートは八の字状に下が開いてしまうのだ。おまけにサイズが一枚135センチである。2枚合わせて270センチということは、ブルーシートの短辺の長さとぴったり同じだ。余裕がないのだ。多少の重なりがあれば少しくらい開いても平気なのだが、まったくその余地もない。

 ひゅーううぅっぅぅ、すきま風が…冷たい。

「……」

 無言でただずむワタシ。茫然自失感無量。

ビニルシートはグロメットで吊り下げるよう加工してあります
なんとかカタチができました
なかはポカポカです

「でも、無いよりましよ」
「隅っこにくれば暖かいじゃない、りっぱなものよ」
「ひとりで作ったってことで合格よ」

と、おかーさん達が慰めてくれる。

 一方おとっつあんたちは、

「なんだかほっ立て小屋みたいだけど、雨露はしのげるんじゃないか」
「まあ人目を気にしなけりゃいいぞ、人間恥ずかしくて死ぬ訳じゃないしな」
「明るいうちは知らん顔して他人の振りしてりゃいいもんな」

などと好きなことをいっている。

 ガムテープやクリップで隙間をふさいだ。ペタペタ、ズルズル、いろんなものがごちゃごちゃくっついていたりするが、わがブルーシート温室は冬の日差しの中でほぼ想像どうりにきらきらと光を反射しているのだった。

 ようやく手作りブルーシート温室を作り上げ、さて本格的なキャンプの始まりであります。


 いつものようにバーベキュー。子供達はおおはしゃぎ。本栖湖畔に出て行っては石投げ。再び戻ってきては鬼ごっこ。息つく暇もありません。おとっつぁん達はビール片手にぐったりしてます。おかあちゃん達は世間話で盛り上がっております。

 夜になると風はぴたりと止みまして。期待どうりの冷え込みがやってきました。みんな焚き火を囲んでおります。コップの中のものは凍ってしまうほどであります。しんしんときております。

 なぜか、みんな、ブルーシート温室の外におります。中は狭くて動きにくいなどと申しております。外でも寒くはないなどと申しております。風がやんだら結構平気とか言ってます。

 星はあいかわらず降るように輝いております。
 焚き火の炎がゆらゆらといつまでもあたりに影をつくっております。
 まん丸の月が静かに湖面に映り、いよいよ夜も更けていきました。


 翌朝。富士山の裾野あたりから太陽が昇ってきました。
 ぼくらのブルーシート温室にオレンジ色の陽がさし、中ではコーヒーの湯気が立っております。
 バーナーの音が心地よく聞こえてきます。

 やれやれ。でも手作りブルーシート温室はなんとか機能した。よかったよかった。ぼくは満足でした。

(著者注 この後ブルーシート温室は一度も使われることなく、いまでも我が家の押入にしまい込まれております。)

おわり

 

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